日本の農業を支える人々は年々高齢化しています。最新の農林業センサスによると、農業を主な仕事とする基幹的農業従事者はおよそ103
6千人で、平均年齢は67.7歳です。65歳以上が約7割を占め、70歳以上だけでも半数を超えています。重い収穫コンテナの運搬、中腰での植え付け、腕を上げ続ける果樹の手入れなど、農作業は体への負担が大きく、腰や肩の痛みをきっかけに引退を考える人も少なくありません。こうした現場で広がりつつあるのが、体に装着して動きを補助するアシストスーツです。
アシストスーツとは何か
アシストスーツは、作業者の体に着けて筋肉の働きを補う装置で、外骨格型ロボットとも呼ばれます。工場や物流、介護の現場で先に導入が進みましたが、近年は農業向けの製品も増えてきました。仕組みは大きく二つに分かれます。モーターとバッテリーで力を生み出す電動式と、ばねや空気圧の人工筋肉などを使う非電動式です。電動式は補助する力が大きい反面、本体が重く価格も高くなりがちです。農家で選ばれているのは、比較的軽く、充電の心配がない非電動式が中心です。
腰を守る仕組み
農作業で特に多い悩みは腰痛です。仕事が原因で起きる病気のうち、腰痛は約6割を占めるとされています。米袋や野菜の入ったコンテナを持ち上げるとき、あるいは前かがみで収穫を続けるとき、腰には大きな負担がかかります。
腰用のアシストスーツは背中と太ももに沿って装着し、体を前に倒したときに上体を起こす方向へ力を返します。例えばイノフィスの「マッスルスーツEvery」は空気圧の人工筋肉を使う製品で、重さは約3.8kg、補助する力は25.5kgfとされています。電気を使わないため、畑の真ん中でも充電を気にせず使えます。より手軽なものとしては、重さ0.5kgほどの軽量なサポートジャケットもあり、長時間の前かがみ作業に向いています。電動式の腰用スーツは補助する力が大きいため、肥料の袋や収穫物を詰めたコンテナを何度も積み下ろしするような、特に負荷の大きい作業で力を発揮します。
腕を上げ続ける作業を支える
果樹栽培には、腰とは別の悩みがあります。ぶどうや梨の棚栽培では、頭上の枝に向かって腕を上げたまま、授粉や摘果、房の形を整える摘粒といった細かい作業を何時間も続けます。人の腕の重さは体重のおよそ17分の1、3kgから4kgほどあり、これを持ち上げ続けるだけで肩や腕は疲れ切ってしまいます。
この作業のために作られたのが、クボタのアシストスーツ「ラクベスト」です。ベストのように着ると、肘をのせるアームが腕を下から支えます。アームの角度は作業する高さに合わせて調整でき、腕の重さを含めて約4.5kgまで保持できます。本体の重さは3.8kgです。利用者からは、梨の授粉や摘果のつらさがかなり軽くなり、腕を上げたまま休めるのもよいという声が寄せられています。慣れるのに1日もかからないという感想もあり、アルバイトを募集するときに、アシストスーツで楽に作業できることを呼びかけに使っている農家もあります。
導入で変わること
アシストスーツの効果は、痛みの軽減だけではありません。疲れにくくなることで作業のペースが落ちにくくなり、一日にこなせる量が増えます。作業後の疲れが軽くなるため、翌日に疲労を持ち越しにくくなるのも利点です。収穫の繁忙期は何日も続くので、一日ごとの小さな負担の差が、シーズン全体では大きな違いになります。体力に不安を感じ始めた高齢の農家が、もう数年現役を続けられるようになることにも大きな意味があります。さらに力仕事の負担が減れば、女性や体格の小さい人、農業未経験のアルバイトも作業に加わりやすくなり、人手不足の解消にもつながります。
課題と選び方
一方で課題もあります。価格は非電動式でも数万円から十数万円ほどで、電動式ではさらに高くなり、小規模な農家にとっては決して安くありません。ただし自治体によっては、スマート農業の推進や労働環境の改善を目的とした補助金の対象になる場合があり、導入前に確認する価値があります。
装着感も大切です。夏の畑では、体に密着する装置は暑さの原因になります。ラクベストでは空調服と組み合わせて使う方法も紹介されています。また、スーツ自体の重さが負担になっては意味がないため、自分の作業に合った部位を支える製品を選ぶことが重要です。腰を曲げる作業が多いのか、腕を上げる作業が多いのか、重い物を運ぶ作業が多いのかによって、最適な一台は変わります。展示会や販売店で試着できる場合もあるので、実際の作業の動きを試してから決めると安心です。
人と機械が一緒に畑に立つ未来
日本の農業では、自動運転トラクターやドローンなど、人の代わりに作業する機械の導入も進んでいます。しかし、果実の熟し具合を見極めたり、傷つけないように収穫したりする繊細な作業は、今も人の手に頼る部分が大きいのが現実です。アシストスーツは、人の経験や判断をそのまま生かしながら、体の負担だけを機械が引き受けるという発想の技術です。高齢化が進む日本の農村で、長く畑に立ち続けるための現実的な道具として、その役割はこれからさらに大きくなっていくでしょう。